豚にやられた王子様

語源の事情もあってフランス語では「歴史 – Histoire」に相当する単語は「逸話 – histoire」に相当するのとスペルが全く一緒。頭文字で書くかどうかが唯一の違い。過去に遡ればその理由が簡単にわかる。本来、歴史家という職がまだなかった時代に所謂歴史的な書物を書いていた者は依頼者 (大体の場合は国の君子或いは地位の高い貴族)の讃歌を謳うつもりでその人物を中心にした逸話から物語を繕っていたけれどもこうやって小さなストーリーを重ねたところで文士たちはヒストリーを作っていたのだ。ヒストリー自体は無数のストーリーで成り立ってるとは言えなくもないからフランスの歴史も軽視されがちの逸話が豊富。

最近マクロン大統領が国旗の青色を微妙に変えたとニュースが報道されたけれども、元々その国旗に青色が入っているのは戰や革命のせいではなく、まさにフランスの歴史を揺るがした小さなストーリーのおかげである。

中世時代にルイ6世の長男は乗馬中に放し飼いのブタに追突され、落馬事故で若くして他界したという惨めなエピソードは歴史マニアの間に広く知られてるが、当時を生きた人たちにとって王国の運命を任せられた王子が戦いながら潔く死を迎えたのではなく、最も不潔な動物だと思われてたブタのせいで死んだのはどのくらい恥ずかしいことなのかは我らの想像力を超えてしまう。天罰とも捉えたそうで、汚れた玉座を清めるために聖マリアの助けに頼ったが、それ以来、絵画などでフランスを代表する時に必ず聖マリアの代表色である青色を使うようになり、その成り行きで現在、フランス国旗のトリコロールにも青が入っている訳。

もしあの日、あの豚があの王子が乗っていた馬に衝突していなかったらフランスは違う国旗を持ってるだろうと思うと、妙に歴史の脆さに感無量になる。まぁそれはそれで戦後最大の危機の最中にいる大統領は旗の青い部分より国のもっと肝心なところを変えようとしてただろう。

著作「王を殺した豚」
著名 ミシェル・パストゥロー
出版社 筑摩書房 
Noisette Press 95号 (2021/12)

コメントを残す

Tendances