崖の上ではしゃぐルパン1世

元大統領を一人、大物俳優や人気歌手を数人。ここ数ヶ月で他界した有名人の数は尋常じゃないような気がする。当然と言えば当然。名前の知られた人は後世に残るとはいえ、最終的には無名な人と同じく皆、早かれ遅かれ逝ってしまうものだ。最近亡くなった方々は全員フランスでは志村けんに負けないほど存在感のある人物だと言ったら嘘になるが、それでもさすがに鬱になるニュースだ。

しかも死因は無論全員、例の菌です。

こんな悲しい状況の中で癒してくれる「何か」を追求する我々にはドラマという娯楽が救いのように感じなくもない。周囲のハマり具合からするとネットフリックス自体は実際に宗教のように見えてきたし。その宗教の一番新しい福音は『ルパン』というドラマである。この時代だとスーパーヒーローの名前を挙げろと言われたらまず頭に浮かんでくるのはアベンジャーズやバットマンなどアメコミの世界から来るようなキャラクターになるのだろうが、映画館がまだ建てられなかった大昔にモーリス・ルブランというフランスの作家が「アルセーヌ・ルパン」という紳士的な泥棒を主人公にした小説シリーズで全く違うジャンルのヒーローを誕生させた。超能力を一切持たぬルパンは冒険家でありながら裕福な人の宝財を掻っ払い、白亜の断崖絶壁で有名なエトルタにある隠れ家で暮らす。シャーロックホームズだと思わせる魅力的な人格や明晰な頭脳のおかげで、ルパン小説シリーズは単なる推理小説というよりすらすら読める面白い話である。

ところで日本人なら誰だって知ってるルパン三世は設定上、このアルセーヌ・ルパンの孫であるし、そのエトルタの隠れ家は奇巌城のモデルになってる。ネットフリックスのドラマが流行った延長で小説の売り上げは再びグッと上がったらしいけど、生きているうちに本物の作家として認められなかったルブランはあの世できっと喜んでるだろう。最近亡くなった方々にいちいちサインを求められなかったらという話だが。

著者 : モーリス・ルブラン
出版社 : ポプラ社
Noisette Press 85号 (2021/02)

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