夢を諦められなかったことで最も有名な人妻

フランス人女性の名前を一つあげてくださいと聞かれたら、ある映画の影響もあって数秒間困った後に『アメリ』と答えてくれる日本人は少なくないだろう。この作品は詩的な世界観で世界中の観客を魅了させヒットとなったのはそこまで昔ではないので頭に浮かんでくるのは当然と言えば当然だが、実はフランス人女性が主役でとんでもない反響を呼んだ物語はそれ以前にもあった。

エンマの話はご存知でしょうか?

どちらかというと名字で知られた『ボヴァリー夫人』は19世紀半ばにフローベールという大物作家により書かれた長編小説のヒロインである。

片田舎の農民の娘として生まれ、結婚適齢期まで修道院に通わされた彼女は物心のついた頃から恋愛小説を読み漁り、ドリカムもビビるほどに刺激に満ちた未来予想図を描いたという。しかし結婚を結び医師の旦那と待ち遠しかった新婚生活を送り始めると自分が一生を棒に振るような感覚に悩まされ、昔から期待していた日々と現実のギャップで日に日に不満を感じながら、無意識に自分の憧れてた何かを不倫や妄想に求めだす。

少女漫画を読みすぎたせいか、結婚して間も無く「そんなはずじゃなかった」とがっかりし、悲鳴をあげる女性はどの時代にでも星の数ほどいる。現在では欲求不満の人妻がアダルト映画の人気なテーマであることもその延長であるだろう。確かに自分の見てた夢が一生叶わないことを認められず結局見続ける方を選んで幸せを掴む人はいないとは言えないけど、この小説が主張するように最悪の場合では現実逃避というか現実拒否をするとかなり惨めな人生を送ることになりえる。

幻滅の心理的なメカニズムはここまで細かく描写されたことはなかった訳で『ボヴァリー夫人』は名作になった上、ボヴァリズムという単語を生み出す程、一人の架空の人物の話ではなく現実をなかなか受け入れない我々の痛いところを突いてくるので非常にオススメ。

著者 : フローベール
出版社 : 新潮文庫
Noisette Press 80号 (2020/09)

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