猫の王子と呼ばれた木登り好きのライター

学生の頃はカラオケで未来予想図などを熱唱している割に、実は将来こそ予想ができない訳で誰もが多かれ少なかれ不安を抱えてしまう。

それに対して人は皆、決して同じような行動に出ない。

キラキラの日々が必ず来るのを信じ、ひたすら勉強に没する生真面目な人がいれば、周囲のプレッシャーに負けたり他人の期待に応えられないのを恐れたりして急に壊れる人もいるが、自由を持て余し恋愛や娯楽に走るのがほとんどの若者だ。

どっちにしろ、二十歳そこそこでアイスランドを渡り歩いたりしてチャリで世界一周を果たすのは恐らくたった一握りの奇人にすぎないだろう。

現代フランスの屈指の作家になったシルバン・テッソンはまさにその中の一人。若くして冒険に目覚めた彼はヒマラヤ山脈を越えたりモンゴルの草原を馬で走り回ったりして逸話に満ちた旅日記や文学的なエッセーで有名。こういうふうに紹介すると「よくある旅人や」とツッコまれそうだが、シベリアで半年という冗談にならないぐらい長い間に隠遁生活に挑戦したりする時点でそこら中のバックパッカーのキャパはともかく文才のレベルも当然違う。

クライミングを趣味にしているテッソンは警察の目を掠めノートルダムの天辺まで100回以上登ったことあるという武勇伝を残すほど、建物を登るのが好きらしい。そういうやんちゃで無謀な面を持つ彼はある日、酒の勢いで自分の編集者の家を登ろうとしていたら、10メートルの高さから転落し脳損傷を負う。

しかし死に損なった彼は入院しているうちに「立ち直ったらこのフランスを周遊するし、このパリをまた上から絶対に眺めてやる」と自分に誓う。リハビリ中にでも昔しょっちゅう不法侵入していた大聖堂まで足を運ぶという。結局、待ちに待った奇跡が起こり、再び歩けるようになったテッソンは無事に退院。その後、南仏からノルマンディまで歩くことに挑戦。その際に書いた本は自己啓発書感もあったせいか瞬く間にベストセラーになり、テッソンの知名度がまた上がる。一方今年はノートルダムが炎に包まれた時、最も感動的な言葉を綴れたのはテッソンであったことは誰も驚きやしなかった。

著者 : シルバン・テッソン
出版社 : みすず書房
Noisette Press 68号 (2019/09)

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