ネット社会でも縮まらない日仏間のイメージの距離

確か大昔はヨーロッパから日本にふらっと行こうとしたら船で何年間もかかる長旅になっていた。片道で数年間。まぁその時点で「ふらっと」行かないか・・・相当暇で年金暮らししていない限り。機内食はヴィーガンでも食べられるかという心配の他に、きっと危険も多かったのではないかと思うし、現在でよく聞く気分転換や自分探しのようなしょうもない理由より、よっぽどの覚悟ができていなかったらそういう旅に絶対に立っていなかっただろう。電波すら拾えば世界のどこの飯屋のメニューでも見られるこの時代では忘れられかけているかもしれないが、そのくらいフランスと日本は離れている。距離的に大変離れているからこそ、両国の相互のイメージも当然、現実から離れることもある。

そういう意味でよく取り上げられるのは女性誌に美化されているパリのネタである。道が汚かったり、トイレがなかったりする訳で、ディズニーランドにいくような感覚でパリに遊びに来る乙女は現実にぶつかり、白馬の王子よりスリに遭い、結局身の不幸を嘆くことが多い。しかし逆に一般的なフランス人が抱えている日本像も割と現実離れしている部分もなくもない。日本人は全員アニメ好きであり、三度の飯よりゲームとメイドを選ぶ国民だと思われるのはまだ笑えるとしても、ゴーン事件の反響が反映するように日本社会の仕組みや状態は未だに全く知られてない。

ちょっと前に湯浅誠の『反貧困』をフランス語に訳したら「日本に貧しい人がいるんだ」と何人にも驚かれたことがあって、生活保護などを軽く説明したが、日本に観光で行ったことのある人は特に信じられないような目でいつも聞いていた。どうやら物乞いやホームレスが道端にほぼいないせいで、日本は貧困問題と縁がないと思われるらしい。天皇制や死刑などシビアなネタは勿論、日本に米軍の基地があることすら意外と知られてない。

旅行だと滞在先について徹底的に研究する必要まではないが、「少子化は知らないけどTENGAは知ってる」観光客ばかりが増えると日本人も妙な顔するはず。日本人に「フランスの革命は知らないけど、ベル薔薇は読んでる」と言われたフランス人も割としかめ面するから。そういう意味で日本はどんな社会なのかをほとんど知らずに来る外国人はパリに夢を持って来る日本人とあまり違わないような気がする。航海の時代と比べれば、距離が縮んだ分、知識が増えたより、もしかして機内食のクオリティーがあがっただけかもしれません。

著者 : 湯浅誠
出版社 : 岩波新書
Noisette Press 63号 (2019/04)

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