
半世紀前のある春の話
もう少しで五月革命の50周年になる。サンミシェル辺りのビストロで珈琲やクロワッサンを呑気に頼む観光客には少々想像しがたいかもしれないけれども、50年前には学生達がその周辺をバリケードで封鎖し、警察と睨みあいながら、政府を覆すように国民に毎日熱く問いかけていた。そう。半世紀前、1968年の春。発煙弾や火炎瓶で空の曇りかけた花の都は、もはや完全に戦場と化していた。
フランスの英雄であり大統領であるシャルル・ド・ゴールの辞任を間接的にもたらしたその政治運動はたった一ヶ月の騒動を経てすっかり解散したのだが、フランス人は未だに日常でその影響を感じられるという。たとえば、その騒動があったからこそ、子供が自分の親に「vous」ではなく「tu」で親しく話せるようになったという。逆にその騒動があったからこそ「親」や「先生」または「神父さん」が威厳を失いかけたと保守側の人が言い張るのだが、どっちみちフランス社会にとんでもない影響を及ぼしたことに変わりはない。
当時はアメリカや西ドイツでも似たような学生運動が行われたことを知った時、「日本ではどんな感じだったのだろうか」という疑問を持ち、何冊かを読み漁ったのだが、びっくりするような場面だらけだった。機動隊と衝突する活動家、大学を占領する学生に国会議事堂前に集まる何十万人の労働者など。自分の日本像からかなりかけ離れていたせいで、最初は不思議に思ったのだが、脱核問題や安保反対の市民運動を思い出してすぐ納得したし、同時に妙な親しさを感じた。マルクス全集を簡単にスマホに落とせる時代になったのは確かだけれども、もしかして半世紀前と根本的にかわっていない部分も多いのではないかと、大規模のストライキがパリで始まる前の日に、ふと思った。
著者 : 三田誠広
出版社 : 廣済堂新書
Noisette Press 52号 (2018/05)




コメントを残す