どう考えても映画館は不思議な場所であります。
知らない人が近くにいるというのに時には腹を抱えてゲラゲラ笑い時には何の遠慮もなく涙を流せますから。それに割と暗いのに隣の席にデカいポップコーンを片手に堂々と座りにくるおっさんをピチピチの女子が許す場所はきっと他にないはずです(水商売を除いて)。
やっぱり不思議です。
親や友達、或いは恋人を連れて行ける場所ですけれども、その際はもちろん映画観ることが第一目的であっても、一旦映画が終わったら一緒に観た人と感想交換したりするのも大事でお喋りの多いフランス人には欠かせぬ時間です。確か映画館は初デートで向いてないスポットだと思われがちですが、同じ映画を観ると相手の感性はだいたい把握できるし何より何かを共感できますから決して悪くないチョイスだと思います。言うまでもないが一人で行くのも全然ありです。僕自身しょっちゅう行ってます。ん?違います。ぴちぴちの女子の隣の席になんか座りませんよ。ところでパリ市内だけで映画館が88個あるらしいですが、おすすめは特に5区に多く残された昔ながらのcinéma d’art et d’essai (日本語の単館系に相当する施設)です。そのタイプの映画館について今度記事を詳しく書こうと思いますので今回はこの辺で。


映画の話と言えば皆さん、フランス映画は観たことがありますか?
何かの形でフランスと縁もあってこのサイトにたどり着いたはずですから、完全に愚問のように聞こえるかもしれませんが、一応気になります。配信サービスの会社自体が自らコンテンツを作る側になったたこの時世では話題の番組や人気ドラマも見切れぬほど多くなり、外国映画どころか邦画すら観てない日本人は少なくないでしょう。それにまだグローバル化がそれほど進んでいなかった数十年前まではフランス映画というのはジャンルとしてしっかり成立されていた上、ハリウッド映画と違う味をしてたのは否定できなかったことに対し現在はもはやそうとは限らなくなっただろう。こんな現状ではむしろ「フランス映画なんて観たことねーし、観たいとも思わねーよ」とツッコマれても、おかしくないです。それほどフランス映画に独創性が欠けてるように感じますから。
120年以上前にリヨンという街から始まったシネマの歴史
映画を発明・流通させたことで知られてるのはリュミエール兄弟です。下の名前はルイとオーグストですけれども、二人ともフランス人で現代語でいうと相当のオタクでした。彼らの発明した技術のおかげで19世期末という大昔の風景などをこんな2020年になっても観賞することができます。40秒もかからないですし、当時の衣装などがみれる訳で是非ご覧になってほしいですが、それは世界で初めて上映された動画です。現在はYouTubeでその4Kリマスター版を無料で観賞できますので是非。
1895年 : La sortie de l’usine Lumière à Lyon (邦題 :工場の出口)
ところで上映会はリョンではなくパリのカプシーン大通りにあったグラン・カフェという喫茶店の地下で行われたらしいです。現在そのカフェは潰れましたが目印は残ってます。リョンの方には映画博物館になったリュミエール兄弟の実家があり、そこに行くと100年前に鎌倉を始め世界中で撮れた短い動画を沢山観れる訳で映画好きにはたまらない場所です。この時代ではそういうのがほぼ全部ネットで出回ってるんですけれども行くチャンスがあれば是非、リュミエール兄弟に挨拶しに行ってほしいです。


年々に濃くなってしまう米国色
ここは流石にフランス映画史を要約するつもりはないですが、一応昔を振り返ったら映画技術がどれだけ飛躍的に発展したことを実感はできますし、非常に残念な展開を意識させられます。リュミエル兄弟の発明のおかげフランス映画は当初世界的に輝いてたし、他の国の映画と違う味をちゃんとおびてましたが、残念ながら現在のフレンチシネマはどんどんアメリカナイズされてしまいます。世界的に一番儲かる映画は確かにアメリカのコメディやアクション系なのでフランスのプロデューサー達もそちらの方に寄せたがるのは不思議ではないです。ただしはっきり言ってハリウッドのスタジオほど予算を持ってる訳ないですから、魂というかフランスの監督の独創性まで捨ててしょうもない作品を作っていくと所詮お金も入らないし知名度もちっとも上がるはずがないだろう。しかもそういうアメリカナイズされた作品はフランス人にさえ好まれないですから、他の国の人が魅力を感じないのは無理もない話です。事でも偽物より本物がいいに決まってますから。結局そういう映画は国内で観られない上、国外にも売られないので、誰の記憶にも残リません。ある意味、それは不幸中の幸いというべきですが。
「意味不明で面白くない」という先入観の壁
フランス映画を観たことがなければそれはそれでいいですが、観たことがあって尚フランス映画について妙なイメージを持ってる日本人が多いような気がしなくもないです。なぜかというとその話を切り出す時は「フランス映画はマジメすぎる」、「テーマが複雑」や「基本的につまらない」の他に「脱ぐシーンは多い」のようなコメントが必ず返ってくるのです。こうやってその非難を書き並べると日本の皆さんが持ってるイメージは相当悪いようにわかりますが、逆にその類の非難から考えるとんでもない映画像が頭に浮かんできてむしろ観てみたいなぁという気持ちになります。だって「脱ぐシーンの多いマジメすぎる映画」は基本的に、「つまらない」はずがないですから。間違いなく笑わせてくれるでしょう。
しかし「難しそう」というマイナスなイメージを持たれるのは仕方ないことだと思います。その理由を把握するために年代後半までという時代まで遡る必要があります。当時、いわゆるヌーヴェルヴァーグという映画運動を代表するゴダールやトリュフォーの作品は、世界的に前代未聞の反響を呼びました。彼らは型破りな編集の仕方と哲学的な要素を組み入れた話で観客を魅了させながら、以前娯楽として見なされた映画ときっぱり違うタイプの作品で「なんか理解しにくい」印象を与えてしまいました。前者の『勝手にしやがれ』と後者の『大人は判ってくれない』はどちらかというとシナリオが分かりやすい名作として認識してますが、当時は前衛的すぎて惑わされた観客や評論家も大勢いたでしょう。フランス映画は「難しい」「ややこしい」「テーマが複雑」という偏見はそこから来てると思われます。


基本的に日本で上映されるフランス映画は二種類に分けられます。”社会現象或いは記録的なヒットとなった映画”と”他の国の映画と違う色に染まった映画”です。『最強の二人』が見事に示すようにフランス特有の映画もヒットになりえなくもないですが、だいたい「いい数字を出した映画」か「変わった味を出す映画」のどちらかにしかカテゴライズされないです。
正直に言いますとどっちも微妙です。
「いい数字」を出したとは言え、所詮フランスの市場はアメリカのとサイズが違う訳ですし、いくらヒットとなったってアメリカのブロックバスターと比べれば桁違いの売り上げになりますので日本の配給会社にとってはそんなにオイシい話ではないです。フランス映画が伴う「難しそうな」イメージも宣伝の邪魔になるだろうし。そうすると配給会社にとっては「変わった味を出す」第二種の映画の方を選ぶメリットが大きいです。それらは基本的にニッチェの映画で玄人というか通の映画好きを対象にしてる訳で、アメコミの実写版と同じような売り上げに期待できない分、ほぼ宣伝する必要もなく観たい人は必ず観にくるだろう。しかも観にくる人々は大抵そういう映画が好きだからこそいちいちフランス映画特有の「難しそうなイメージ」を気にしなくてもいいだろう。反面、変わった味の出る映画ばかりをピックアップし日本の映画館で上映すると今回日本人の抱えるフランス映画のイメージは「難しい」上「意味不明」や「内容の変わった作品が多い」になってしまいそうで、TSUTAYAなどで借りる人は増えそうもないだろう。
こんな悲惨的な結論を出したところでフランス映画の賛歌を歌うのは非常に難しいですが、一応毎週新しく上映される数えきれぬほど多くの作品の中で観る価値のある映画はありますし、過去を遡れば傑作がいくらでも出てくる訳でフランス映画自体は「つまらん」という一言で片付ける訳にはいかないと思います。とりわけ今度はこちらで生活している日本人がフランス人の日常会話に出てくるようなジョークや台詞などをより理解できるように「観るべきな映画」のリストを作り解説しようと思います。コロナの危機が治まったら渡仏しようと考えてる人にもきっと背景的・文化的な要素の参考になるのではないかと思いますので次回もよろしくお願いします。
最後に最初のSF映画だと言われる『月世界旅行』という動画を是非ご覧になっていただきたいです。リュミエール兄弟の上映会に出席したジョージ・メリエスは当時劇場を経営していましたが「映画」の革命的な要素をすぐ感じ取り、未来は演劇より映画の方が人気になりそうだと予想し、世界で初めて職業映画監督となり「シネマジジアン」とすら呼ばれるようになります。彼の代表作はユーチューブで無料で観れますが、100年前にどんな発想、どんな演技で映画を作っていたことに興味を持ってる人は是非ご覧ください。お月様のあの絵くらいはきっと観たことあるでしょう。
1902年 : Le voyage dans la Lune (邦題 : 月世界旅行)
参考
Paris :
Cinémathèque : https://www.cinematheque.fr
Lyon :
Institut Lumière : http://www.institut-lumiere.org


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